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カスタマーレビュー ![]()
「自由」に感謝
(2007-11-24)
野溝七生子と言う作家さえ知りませんでした。
たまたま書店の書棚で「山梔(くちなし)」と言うタイトルが目につき購入したものです。そのために、読むまで数ヶ月が経ってしまいました。
物語は、厳しい軍人の父を持つ阿字子が主人公です。父親は、継母に育てられたこともあって、折檻だけが子育てと考えているような人物です。そうした家庭にあって、高い知識を持った女性(しかも純粋)の悲劇を描いています。理解してくれた姉たちは嫁に行き、主人公は兄嫁の登場などで、家庭内で孤立を深めてゆきます。
当時の家長制度にあっては、女性に発言権はなく、家長の発言がすべてでした。そうした家庭内にあって、主人公の苦しい心理状態が精緻に描かれてゆきます。それだけに、読んでいて何とかならないのかと主人公に応援したくなり、「自殺」するのではと言うラストの予感が掠めます。
知識だけでしか知らない戦前の「家族」が、目の前に現出します。今では、理不尽と思えるような論理が正当とされていた時代の恐ろしさを感じます。逆に言えば、現代の自由過ぎるくらいの自由を、もっと感謝しなければいけないのでしょう。
文学少女の受難
(2007-08-26)
これはまだ 女の子には知性や学問が必要でないとされていた時代の物語。
阿字子という一風変わった、でも いとおしくなる名前を持った少女がヒロインです。
幼い頃から本をこよなく愛し、神話や伝説を読んで育んだ豊かな内面世界を持つ阿字子。
感じやすく繊細で、優しく清らかな心と愛情に溢れた眼差しを持っているけれど
剛情で、傲慢なくらい誇り高い“精神の王女”です。
家父長制の時代なので、年頃になった阿字子には当然のように
世間体を重んじる周囲との軋轢が生じます。
大人になること、結婚することを拒む阿字子。
そんな阿字子の苦しみ・悲しみが
まるで他人事には思えなくなってくる、苦しいくらいにせつない物語。
危うい透明感
(2006-10-10)
この作品には全編を通して危うい透明感が満ちています。
あと一歩間違えればあっちの世界に行ってしまいそうな、そんなぎりぎりのところに踏みとどまってみる世界は息を呑むほど美しいのです。
主人公・阿字子を手放しに賞賛することはできませんし、彼女と世界との齟齬の原因を一方的に世界の側に求めることもできません。阿字子にたいしてひどくもどかしい思いを抱くこともあります。しかしそれでも、私は阿字子の中に私を見るのです。
完璧な傑作とは決していえませんが、私の人生に与えた影響の大きさでは今まで読んできた作品の中でももっとも大きいものの一つです。